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本採用拒否は留保解約権の行使、法的には解雇
試用期間中も労働契約は成立しており、解雇権濫用法理が適用される。「お試し期間」ではない。
要件は「採用時に知り得ない事実・客観性・改善機会」の三点
印象では足りず、勤務を通じて判明した事実を第三者が検証できる形で示し、指導の経過も要る。
入社時に期待を言語化し、30・60・90日で記録を重ねる
判断を支えるのは期間の長さではなく記録の密度。節目ごとの観察と本人の説明が自由度を使える状態にする。
「試用期間中だから、合わなければ辞めてもらえる」。採用の現場で、こうした認識を耳にすることは少なくありません。しかし、法的には試用期間中であっても労働契約は成立しており、本採用を拒否することは解雇に当たります。試用期間は「お試し期間」ではなく、解約権が留保された労働契約の期間です。
一方で、試用期間中の解雇は、通常の解雇よりも広い範囲で認められています。採用時には分からなかった適格性を、実際の勤務を通じて判断するための期間だからです。つまり試用期間は、企業にとって最も判断の自由度が高い時期であると同時に、その自由を使うためには観察と記録が必要な時期でもあります。
本記事では、本採用拒否の法的な位置づけ、認められる要件、期間の設定と延長の考え方、そして入社から30日・60日・90日の節目で何を観察し記録すべきかを整理します。採用の数だけ不適合は生じます。試用期間を、属人化しない組織運営の一部として運用するための共通言語としてご活用ください。
試用期間の法的な位置づけ
留保解約権付きの労働契約
試用期間に関する最も重要な判例は、三菱樹脂事件(最高裁大法廷判決 昭和48年12月12日)です。この判決は、試用期間中の労働契約を「解約権留保付労働契約」と位置づけました。すなわち、労働契約は入社時に成立しており、企業はその契約を解約する権利を留保しているにすぎない、という考え方です。
したがって、本採用拒否は「契約を結ばない」ことではなく、「成立している契約を解約する」こと、つまり解雇です。労働契約法第16条の解雇権濫用法理が適用され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効になります。
通常の解雇より「広い」が「無制限」ではない
同判決は、留保解約権の行使について、通常の解雇よりも広い範囲で認められるとしました。採用決定の段階では知ることができなかった事実が、試用期間中の勤務を通じて判明し、その事実に照らして引き続き雇用することが適当でないと判断できる場合には、解約権の行使が認められます。
ただし「広い」は「自由」ではありません。解約権の行使が認められるのは、その判断が客観的に相当である場合に限られます。「なんとなく合わない」「雰囲気が違う」といった印象だけでは、客観的な相当性を示すことはできません。
解雇予告の適用
労働基準法第21条により、試用期間中の者で入社後14日以内の場合は解雇予告の規定が適用されません。しかし、14日を超えた場合は、通常の解雇と同様に30日前の予告または解雇予告手当が必要です。「試用期間中だから予告は不要」という理解は、入社14日以内に限られます。
本採用拒否が認められる要件
判例の蓄積から、本採用拒否が認められやすい要件を整理すると、次の三つに集約されます。
第一に、採用時に知り得なかった事実であることです。履歴書や面接で分かっていた事情を理由にすることはできません。勤務を通じて初めて判明した能力・勤務態度・適格性が対象です。
第二に、事実が客観的に確認できることです。遅刻・欠勤の回数、業務上のミスの内容と頻度、指示に対する対応など、第三者が検証できる形で示せる必要があります。
第三に、改善の機会を与えたことです。指摘し、指導し、改善を求め、それでも改善が見られなかったという経過が求められます。短期間で判断する試用期間だからこそ、指導の記録が判断の根拠になります。
この三つに共通するのは、「記録がなければ示せない」ということです。試用期間が短いほど、記録の密度が判断の質を決めます。
試用期間の長さと延長
期間の設定
試用期間の長さに法律上の上限はありませんが、3か月から6か月が一般的です。長すぎる試用期間は、労働者を不安定な地位に置くものとして、公序良俗に反し無効と判断される可能性があります(ブラザー工業事件 名古屋地裁判決 昭和59年3月23日)。
延長の可否
試用期間の延長は、就業規則にその根拠があり、延長する合理的な理由がある場合に限って認められます。就業規則に延長の規定がない状態で一方的に延長することはできません。また、延長の理由は本人に説明し、延長期間中に何を改善すべきかを明示する必要があります。
延長は「判断を先送りする」ための手段ではなく、「改善の機会をもう一度与える」ための手段です。延長する場合は、延長時点までの観察記録と、延長期間中の改善目標を、本人と共有する形で記録に残します。
30・60・90日の観察と記録の手順
試用期間を3か月とした場合、入社から30日・60日・90日の節目で、次のように観察と記録を進めます。
入社時:期待の言語化
採用時に期待した役割・業務内容・水準を、本人と確認します。ここで確認した内容が、以後の観察の基準になります。「何を期待していたか」が記録にないと、「期待と違った」を客観的に示すことができません。
30日:初回の確認
業務への適応状況、勤怠、報告・連絡・相談の状況を確認します。この時点で気になる事象があれば、事実として記録し、本人に伝えます。「様子を見る」だけで記録を残さないと、60日時点で「いつから問題があったのか」を示せなくなります。
60日:改善の確認
30日時点で指摘した事項について、改善の有無を確認します。改善が見られない場合は、書面で改善を求め、本人の説明を記録します。延長を検討するのであれば、この時点で延長の理由と改善目標を整理します。
90日:本採用の判断
入社時の期待、30日・60日の記録、指導の経過と改善の有無を並べて、本採用の可否を判断します。本採用を拒否する場合は、採用時に知り得なかった事実、客観的に確認できる事象、改善の機会を与えた経過の三点が記録から示せるかを確認し、専門家に相談したうえで手続きに進みます。
よくある誤解
「試用期間中は理由なく辞めてもらえる」。前述のとおり、本採用拒否は解雇であり、客観的に合理的な理由が必要です。
「試用期間を長くしておけば安心だ」。長すぎる試用期間は無効とされる可能性があり、期間の長さより記録の密度が判断を支えます。
「試用期間中の指導は本採用後と同じでいい」。試用期間は判断までの時間が短いため、指導の内容と本人の説明を、その都度記録する密度が必要です。
「合意退職なら記録は不要だ」。試用期間中の退職勧奨で合意に至る場合でも、勧奨の理由を説明できる記録がなければ、退職強要と評価されるリスクが残ります。
ケース比較:同じ90日、違う結末
同じ状況から始まる二つのケースで、記録の有無が本採用の判断にどう影響するかを見てみます。
ある小規模なソフトウェア会社が、中途でエンジニアを採用しました。入社後、指示された仕様と異なる実装が続き、確認を求めても「分かりました」と答えるだけで、同じことが繰り返されました。
一つ目のケースでは、上司は口頭で都度指摘していましたが、記録は残していませんでした。90日目に本採用の可否を検討した際、経営者は「合わない」という感触を持っていましたが、人事担当に「いつ、何を指摘したか」を聞かれても答えられませんでした。採用時に何を期待していたかも文書化されておらず、「期待と違った」を示す材料がありません。結果として、本採用拒否は法的リスクが高いと判断され、そのまま本採用に至りました。その後も状況は改善せず、半年後に退職勧奨を行うことになり、解決金を伴う合意退職で決着しました。
二つ目のケースでは、入社時に担当業務と求める水準を本人と確認し、記録していました。30日目に仕様と異なる実装が2件あったことを事実として記録し、本人に伝え、本人の説明(「仕様書の読み方に不慣れだった」)も残しました。60日目に同種の事象が3件あったため、書面で改善を求め、確認手順を合意しました。90日目の時点で、改善が見られなかった事実、指導の経過、本人の説明が揃っており、専門家に相談したうえで本採用を見送る判断ができました。
二つのケースの違いは、判断の自由度そのものではなく、自由度を使えたかどうかです。試用期間中の解雇が通常より広く認められるとしても、根拠を示せなければ、その広さは使えません。
期間の長さより密度
一つ目のケースで、試用期間を6か月に延ばしていれば結果は変わったでしょうか。記録がなければ、6か月後も同じ状況です。判断を支えるのは期間の長さではなく、期間中の記録の密度です。3か月であっても、30・60・90日の節目で記録が残っていれば、判断に必要な材料は揃います。
MONTAIによる試用期間の運用
MONTAI(モンタイ)は、問題社員対応から派生した人的リスク管理インフラです。
フォーマットの標準化:管理職が迷わず記録できる項目設計。事実と観察の分離を構造として誘導します。
1分記録:スマートフォン・業務端末から、面談直後にその場で記録が完了します。
閲覧権限の厳格な制御:機微な記録を、上司・人事・経営・法務などの役割単位で制御できます。
AIによる規程ピックアップ補助:記録内容に応じて関連する社内規程を自動で提案します(判断はあくまで担当者が行う補助機能)。
試用期間の運用では、入社時の期待、節目ごとの観察、指導と本人の説明を、一つの案件として時系列で残せることが重要です。採用のたびに発生する業務だからこそ、担当者が替わっても同じ手順で回る型が必要になります。
なお、MONTAIは人事判断・法的判断を代替するものではありません。制度設計や個別事案については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。MONTAIは、その相談と判断の質を支える記録のインフラとして機能します。
まとめ
試用期間中の本採用拒否は、留保解約権の行使であり、法的には解雇です。通常の解雇より広く認められますが、採用時に知り得なかった事実・客観的に確認できる事象・改善の機会の三点を示せる記録が必要です。試用期間は「お試し期間」ではなく、入社時の期待を言語化し、30・60・90日の節目で観察と記録を重ねる期間として運用することで、判断の自由度を実際に使える状態になります。
参考・引用
三菱樹脂事件(最高裁大法廷判決 昭和48年12月12日)
ブラザー工業事件(名古屋地裁判決 昭和59年3月23日)
労働契約法第16条(解雇)
労働基準法第20条(解雇の予告)、第21条(解雇予告の適用除外)
厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」
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本記事の位置づけ
本記事は試用期間と本採用拒否に関する一般的な解説であり、特定の事案に対する法的・実務的な助言を提供するものではありません。個別の事案対応については、社会保険労務士・弁護士等の専門家への相談をお勧めします。