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PIP(業務改善計画)の導入を決めたものの、具体的にどう進めればよいか──。この問いに答える企業側の実務情報は、驚くほど少ないのが現状です。進め方を誤れば、改善の機会であるはずのPIPが「違法な退職強要」と評価され、紛争の火種になります。逆に、正しく設計・運用されたPIPは、対象者にとって公正な機会となり、会社にとってはプロセスの正当性を示す記録になります。本記事では、PIPの進め方を5つのステップに分解し、各段階で「何を決め、何を記録すべきか」を、人事担当者・管理職の皆様に向けて解説します。
全体像──PIPは「記録に始まり記録に終わる」
5ステップの全体像は次のとおりです。
課題を事実で特定する(開始前)
目標・期間・支援を設計する(計画)
面談と支援を実行する(運用)
中間評価でフィードバックする(軌道修正)
期間満了時に評価し、次を判断する(完了)
各ステップに共通する原則が一つだけあります。すべての判断を、観察された事実の記録に基づいて行うことです。印象や評判ではなく事実。これが適法性と納得感の両方を支えます。
ステップ1:課題を事実で特定する
PIPは突然始めるものではありません。開始の前提として、日常の指導で改善を促したが改善が見られなかったという経緯が必要です。いきなりPIPを通告された従業員は、改善目的を疑い、防御的になります。
課題の特定では、「営業成績が悪い」ではなく「直近6か月の受注件数が目標12件に対し3件、同職位平均は10件」のように、期間・指標・水準を明示します。行動面の課題も同様に、「報告が遅い」ではなく「○月○日の○○案件で、顧客クレームの報告が発生から3営業日後だった」と、日時と事実で記述します。
ここで効いてくるのが日頃のマネジメント記録です。記録がなければ課題は印象論になり、PIPの出発点から正当性が揺らぎます。
ステップ2:目標・期間・支援を設計する
目標は「同職位に通常期待される水準」を上限に
達成不能な目標は、改善目的の不存在を推認させる最大の事情です。設計の基準は明確で、同職位の平均的な従業員に通常期待される水準を超えないこと。過去に本人が達成したことのある水準や、チーム平均を参照して設定します。測定可能であることも必須です。達成判定が主観に委ねられる目標は、評価段階で必ず紛糾します。
期間は3〜6か月を目安に
短すぎる期間は改善機会の実質性を欠きます。業務のサイクル(営業であれば商談リードタイム)を踏まえ、改善の成果が現れうる長さを確保します。
支援内容を文書に明記する
研修の提供、同行指導、面談の頻度など、会社側が何をするかを計画書に明記します。PIPは本人任せの試験ではなく、会社と本人の共同作業です。この支援の記載と実行こそが、後にプロセスの正当性を支えます。
設計段階で社会保険労務士・弁護士のレビューを受けることをお勧めします。設計と助言は外部、実施と判断は社内──これが正しい役割分担です。
ステップ3:面談と支援を実行する
運用の中核は定期面談です。週次または隔週で30分程度、次の型で進めます。
面談のたびに、その場で記録を残します。記録する要素は、日時、確認した事実、本人の発言の要旨、合意事項、観察された懸念の5点。事実(受注2件)と観察(顧客への提案準備に改善が見られる)を分離して書くことが、記録の証拠価値を決めます。後でまとめて書いた記録は、正確性も信頼性も大きく落ちます。
面談で避けるべきは、退職への言及です。改善を支援する場で退職の選択肢に触れた瞬間、PIP全体が退職強要の文脈で再解釈されるリスクを負います。
ステップ4:中間評価でフィードバックする
期間の中間点で、それまでの記録に基づき進捗を正式に評価し、本人に伝えます。中間評価の意義は2つあります。
第一に、軌道修正の機会です。目標設定や支援内容に無理があれば、ここで調整します。調整の事実もまた、会社が改善に誠実であったことの記録になります。
第二に、驚きの排除です。期間満了時の評価が本人にとって寝耳に水であってはなりません。中間時点で現在地を共有しておくことで、最終評価の納得性が高まります。
ステップ5:期間満了時に評価し、次を判断する
期間満了時は、事前に定めた基準に照らして達成状況を評価します。結果に応じた選択肢は次のとおりです。
重要なのは、PIP未達が自動的に処遇変更につながるのではなく、PIPの全記録が次の判断の材料になるという構造です。裁判所は結果ではなくプロセスを審査します。
違法と言わせないための運用チェックリスト
最後に、運用全体を貫くチェックポイントを挙げます。
このチェックリストの大半は「記録があるか」に帰着します。PIPの適法性は、運用の丁寧さの総和であり、それを証明できるのは記録だけです。
PIP開始を見送るべきケース
5ステップに入る前に、PIPがそもそも適切でないケースを除外する必要があります。第一に、健康問題が疑われる場合。メンタル不調を含む健康起因のパフォーマンス低下には、PIPではなく産業医連携と療養支援で対応します。第二に、ハラスメントの申告や調査が係属している場合。申告者へのPIP開始は報復と受け取られ、それ自体が新たな法的リスクになります。第三に、課題を裏づける記録がほとんどない場合。印象論で始めるPIPは出発点から正当性を欠きます。まず日常の指導と記録を数か月運用し、事実を蓄積してから判断すべきです。PIPは万能の手続ではなく、「事実が揃っていて、健康・環境要因が除外されている」場合に機能する手続だと理解してください。
ケース別の留意点
5ステップの骨格は共通ですが、職種・立場によって設計の力点が変わります。
営業職など数値で測れる職種
目標は受注件数・売上などの結果指標に置きやすい一方、市場環境や担当テリトリーの影響を受けます。結果指標だけでなく、商談数・提案数といった本人の行動でコントロールできる中間指標を併用することで、環境要因による未達と本人起因の未達を切り分けられます。この切り分けは、評価の公平性と納得感に直結します。
間接部門など数値で測りにくい職種
エラー件数、期限遵守率、手順の実施率など、行動レベルで測定可能な指標に落とします。「正確に」「丁寧に」といった形容詞のままの目標は、達成判定の段階で必ず紛糾します。測定方法(誰が・いつ・何で確認するか)まで計画書に書き込んでおくことが重要です。
管理職を対象とするPIP
管理職の場合、課題はマネジメント行動(部下面談の実施率、評価フィードバックの質、チームの離職状況など)に及びます。役割期待そのものが曖昧なケースが多いため、まず期待する役割を文書で明確化することから始めます。降格を視野に入れる場合は、就業規則上の根拠と手続の整合について、早い段階で専門家に確認してください。
よくある質問
PIP運用を支えるMONTAI
MONTAI(モンタイ)は、問題社員対応から派生した人的リスク管理インフラであり、PIPの各ステップで必要となる記録を一貫して支えます。
なお、MONTAIは人事判断・法的判断を代替するものではありません。PIPの設計や期間満了時の判断については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。
まとめ
PIPの進め方は、①事実による課題特定、②実現可能な目標と支援の設計、③面談と記録の実行、④中間評価、⑤満了時の評価と判断──の5ステップに整理できます。貫く原則はただ一つ、すべてを観察された事実の記録に基づいて行うことです。記録はPIPの副産物ではなく、PIPそのものの品質を決める中核です。
MONTAIのデモ環境では、PIP面談記録の実装イメージを最長2週間無料でお試しいただけます。運用設計の検討段階から、お気軽にご利用ください。
参考・引用
労働契約法第16条(解雇権濫用法理)
東京高判平成25年4月24日(PIP実施後の能力不足解雇を無効とした裁判例)
厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
関連リンク(MONTAI)
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