即戦力エンジニア
の
木下さん
(
28歳
)
開発部の部長
の
松下さん
(
43歳
)

慢性的な人手不足に悩む成長企業にとって、「即戦力」という言葉は甘美な響きを持っています。
喉から手が出るほど欲しい経験豊富な人材。多少高い給与を払ってでも採用したい。
しかし、その焦りが目を曇らせ、実力と経歴が乖離した人材を招き入れてしまうことがあります。
「現場が回らない」「思ったほどできない」
そう感じた時、経営者が「高い金を払ったのだから」とサンクコストに囚われて判断を遅らせれば、現場の疲弊は極限に達し、最悪の場合、既存の優秀な社員が去ってしまいます。
今回は、あるITベンチャー(開発部)で起きた「経歴詐称」の事例をもとに、採用のミスマッチという致命傷を防ぎ、迅速に組織を正常化するための**「パフォーマンスの記録」**についてご紹介します。
【事例】「コードが書けない?」鳴り物入りで入社したエンジニア
ITベンチャーH社の開発部での出来事です。
輝かしい職務経歴書と巧みな面接トークで採用された木下さん(仮名)。「前職では大規模プロジェクトのリーダーを務めた」という触れ込みで、即戦力として期待されていました。
しかし、配属から3ヶ月。現場からは悲鳴が上がっていました。
「基本的な機能実装が進まない」
「初歩的なバグを連発する」
周囲がどれだけフォローしても、成果物は上がってきません。現場には「経歴と実力が違いすぎるのでは?」という疑念が渦巻き、プロジェクトの遅延は深刻化していました。
「使えない」という愚痴ではなく、「アウトプットの事実」を記録する
開発部長が動いたのは、単に「彼を採用したのは失敗だった」と嘆くことではありませんでした。「クラウド型リスク管理ツール(MONTAI)」へ、日々の業務パフォーマンスを客観的に記録することです。
「XX月XX日 機能Aの実装を指示。3日間経過するも進捗ゼロ」
「XX月XX日 提出コードに仕様理解不足による初歩的エラーが5箇所あり」
「能力不足」という評価は主観を含みますが、「何ができていないか」という事実は客観的です。
部長は感情を排し、木下さんのパフォーマンスの現状を淡々と蓄積していきました。
信頼関係の崩壊。「記録」が決定的な調査への扉を開く
記録に基づき面談を行いましたが、木下さんは「環境に慣れていないだけ」と弁明し、自身のスキル不足を認めようとしませんでした。
しかし、MONTAIに残された記録は、職務経歴書にある「プロジェクトリーダー経験」とはあまりにかけ離れた実態を示していました。
この「客観的な事実との乖離」が、会社に調査への決断をさせました。
会社は本人の同意を得た上で前職への照会を実施。その結果、リーダー経験はおろか、当該プロジェクトへの関与自体が虚偽であったことが発覚しました。
これは単なる能力不足ではなく、**労働契約の前提となる信頼関係の破壊(経歴詐称)**でした。
採用の失敗を「致命傷」にしないためのスピード決断
会社は即座に契約解除に向けて動きました。
通常、解雇や契約解除は高いハードルがありますが、今回は「能力不足を示す詳細な業務記録」と「経歴詐称の証拠」が揃っていました。
会社側がこれらを提示し、契約解除を通知すると、木下さんも反論の余地なく事実を認め、即日の合意退職となりました。
もし記録がなく、ずるずると雇用を続けていれば、プロジェクトは破綻し、現場のエンジニアたちは失望して退職していたかもしれません。
まとめ:信頼は「事実」によってのみ担保される
採用における「性善説」は大切ですが、経営においては「性悪説」への備えもまた必要です。
期待値と実績の乖離を、具体的な事実として記録する
違和感を放置せず、記録を根拠に断固たる処置をとる
採用の失敗を認めることは苦しいですが、傷口を広げないための迅速な損切り(判断)こそが経営者の責任です。
今回のH社の事例は、事実の記録こそが、採用リスクから組織を守り、現場の信頼を維持するための最も堅実な**「礎(いしずえ)」**となることを教えてくれています。
労務トラブル事例


