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はじめに:「就業規則は作ったのに、いざという時に使えない」
顧問先から突然、こう連絡が入った経験はないでしょうか。
「先生、うちの○○さんを辞めさせたいんですが、どうすれば……」
話を聞くと、勤務態度の問題は2年前から続いていた。しかし具体的な記録はなく、あるのは直属上司の記憶と、断片的なメールのやり取りだけ。就業規則は先生ご自身が整備したものが存在している。評価制度も賃金規程も整っている。それでも、いざ「辞めてもらう」段階になると、エビデンスが何一つ揃っていない。
このパターン、心当たりのある先生は多いはずです。
そして、ここに社労士業務の最も深い構造的課題が潜んでいます。1号業務で作り込んだ成果物が、3号業務の現場で十分に活かされていない。この断絶が、社労士ビジネスの深さと、顧問先の満足度の両方を縛ってきたのです。
本記事では、この断絶がなぜ構造的に発生するのかを、1号・3号の業務区分に沿って解きほぐしつつ、その解決策として日々の記録インフラ「MONTAI」を社労士業務に組み込む意義を、実務と経営の両面から論じます。
1. 1号業務・3号業務の「間」に何があるのか
1-1. 1号業務で作られる「評価の物差し」
社労士法2条1項1号に定める1号業務は、申請書類・届出書類の作成、そして就業規則をはじめとする労務諸規程の作成を含みます。これは社労士の独占業務であり、労務管理の骨格を設計する、最も専門性の高い領域のひとつです。
1号業務で作成される就業規則には、たとえば以下のような規定が含まれます。
これらの規定は、本質的に「評価の物差し」です。どのような行動が服務規律違反にあたるのか、どのような状態が勤務成績不良と判断されるのか、その基準を定めています。
しかし、物差しは当てられて初めて機能するものです。
1-2. 3号業務で求められる「具体性の高い助言」
社労士法2条1項3号業務は、労務管理・社会保険に関する相談・指導です。こちらは独占業務ではなく、他士業や経営コンサルタントとも競合する領域ですが、同時に社労士の専門性が最も付加価値を生む領域でもあります。
3号業務の典型的な相談内容は以下のようなものです。
これらの相談に対して、社労士が提供すべき助言は、顧問先の社長が求めているのは、「具体的で、実行可能で、法的にも耐える判断」です。「一般論としてはこうです」ではなく、「あなたの会社の、その従業員について、今どう動くべきか」。
ところが、この具体性の高い助言を組み立てるには、大量の一次情報が必要なのです。
1-3. 1号と3号の「間」に横たわる情報断層
ここで構造的な問題が立ち上がります。
1号業務で作った物差し(就業規則)を、3号業務の現場で使うためには、「物差しを当てる対象」である現場の事実が揃っていなければなりません。しかし、その事実情報は顧問先の内部で発生し、記録されずに散逸していく。社労士の先生に届くのは、トラブルが顕在化した時点で、顧問先の社長や人事担当者の記憶を経由した、フィルタリング済みの二次情報です。
図式化すると、こうなります。
この情報断層があるために、社労士の先生方は以下のような構造的制約の下で3号業務を行っています。
これらの制約の下で、先生方は限られた情報から最大限の助言を引き出そうと努力してこられました。しかし、情報の質が低い状態では、どれほど専門性が高くても助言の精度には天井があるのです。
2. 3号業務の価値を決めているもの
2-1. 1号・2号と3号の、それぞれ異なる価値の出し方
ここで、社労士業務の性質を少し俯瞰してみましょう。
1号業務・2号業務は独占領域です。就業規則の作成や各種届出は、社労士でなければ代理できない。これらの業務の価値は、「正確に、確実に、法令に沿って仕上げること」によって生まれます。求められるのは専門性の正確性であり、ここに先生方の資格価値の根幹があります。
対して3号業務は非独占領域です。労務管理の相談・指導は、社労士以外にも経営コンサルタントや人事コンサルタントが参入できる。しかしだからこそ、提供する助言の質によって、その価値の幅が大きく変わります。
同じ「相談・指導」という行為でも、
これらは全て法的には正しくあり得る一方、顧問先にとっての実用価値は質的に異なります。そして3号業務の真価は、この「深さの違い」によって表れるのです。
2-2. 3号業務の深さを決めるのは「情報の解像度」
では、何が3号業務の深さを決めているのか。その答えは、顧問先の人的状況をどれだけ高解像度で把握しているか。この一点に尽きます。
高解像度の情報を持つ社労士が提供できる助言は、
「田中さんの遅刻は、この3ヶ月で7回発生しており、そのうち5回は金曜日です。メンタル不調の兆候の可能性があるため、まず産業医面談を挟んでから指導してください」
情報解像度が低い状態での助言は、
「遅刻が続いているのであれば、口頭注意から始めて、改善しなければ文書指導、それでもダメなら懲戒を検討してください」
両者とも、社労士として法的には正しい。しかし顧問先にとっての実用価値は、質的に大きく異なります。一般論としての正しさは、顧問先が自分でWebを検索してもある程度たどり着ける。一方、「この会社・この人・この瞬間に最適な助言」は、顧問先にとって余人をもって代え難い価値となるのです。
2-3. 口頭報告ベースの情報には構造的限界がある
ここで厳しい現実を直視する必要があります。現状の情報収集手段では、踏み込んだ助言を構造的に提供することが困難です。
月次の定例訪問や電話相談で、顧問先の社長や人事担当者から聞き取る情報は、どれほど誠実に聞いても、記憶バイアスと選別バイアスから逃れられません。社長は「気になること」しか話さない。そして「気になること」は、既に手遅れになりかけている問題であることが多い。
この構造的限界が、多くの社労士の先生方が潜在的に提供できるはずの3号業務の深さを、現状では引き出しきれていない要因です。情報の質が、助言の質の天井を決めている。
3. MONTAIが開く「1号→3号」の情報導線
3-1. MONTAIの本質:記録ツールではなく「情報の導線」
ここまで論じてきた構造的課題を踏まえると、MONTAIの位置づけがはっきりしてきます。
MONTAIは、単なる「記録ツール」や「HRシステム」ではありません。社労士の先生方が1号業務で作り込んだ就業規則(評価の物差し)と、3号業務で求められる具体的助言を、現場の一次情報によってつなぐ「情報の導線」です。
具体的には、以下の3つの機能を担います。
3-2. 3号業務での相談対応が、こう変わる
MONTAIが介在すると、3号業務の相談対応は以下のように変わります。
従来の相談対応
顧問先から「○○さんについて相談が」と連絡が入る
社長から経緯の説明を受ける(ただし記憶ベース、選別済み)
「それはいつ頃からですか?」「具体的な指導は?」「記録は残っていますか?」と質問攻めになる
「記録はないです」「はっきりとは覚えていなくて……」
限られた情報から、リスクを含んだ助言を組み立てる
MONTAIを介在させた相談対応
顧問先から「○○さんについて相談が」と連絡が入る
先生は通話前に、MONTAIで○○さんの記録を一読する
「3月の件と、5月のプロジェクト遅延、それから先週の指導を踏まえると、現段階では懲戒相当まで到達していません。ただし、次にこの行動が記録されれば、けん責処分の要件を満たします。まず改善指導を以下の様式で行い、記録を残してください」
顧問先にとって、即座に実行可能な次の一手が提示される
この違いは、顧問先から見れば「異次元の顧問サービス」です。そして社労士事務所から見れば、同じ30分の通話で、質的に全く異なる価値を提供していることになります。
3-3. 1号業務そのものの質も向上する
逆方向の効果もあります。
MONTAIに蓄積された記録を見ることで、先生は自分が設計した就業規則が、現場でどう作動しているかを初めて観察できるようになります。
こうした発見は、次回の就業規則改訂(1号業務)の質を根本から高めます。つまりMONTAIは、1号業務の成果物を3号業務で活かすだけでなく、3号業務で得られた情報を1号業務に還流させる、双方向の学習サイクルを回す装置でもあるのです。
4. 顧問サービスそのものの再設計
4-1. 「事後対応型」から「継続併走型」へ
MONTAIを顧問サービスに組み込むことで、顧問先との関わり方そのものが変わります。
従来の顧問サービス
MONTAI統合型の顧問サービス
この変化の本質は、先生と顧問先の関係が「呼ばれてから動く」から「継続的に併走する」へと変わることです。顧問先から見れば、これまで「何かあった時の相談相手」だった社労士が、「日々の労務運営を共に見てくれるパートナー」へと役割を広げることになります。
4-2. 紛争対応の質が変わる
労働審判や訴訟対応は、引き続き先生方の専門性が最も発揮される場面です。MONTAI導入顧問先では、この場面の質が大きく変わります。
記録が揃っている案件では、
記録不足に足を引っ張られる従来の紛争対応から、記録を土台として専門性を純粋に発揮できる紛争対応へ。これは先生方にとっての実務的な負担軽減でもあり、顧問先に対する成果の確実性向上でもあります。
4-3. 新規顧問先獲得における差別化
「MONTAIを活用できる社労士」というポジショニングは、新規顧問先獲得においても強い意味を持ちます。特に以下のような顧問先層に響きます。
「記録インフラと一体化した顧問サービス」は、他の社労士事務所と並べて比較された時に、明確な差別化軸となります。顧問先にとって「どの先生と契約するか」の判断基準に、新しい次元が加わるのです。
5. 導入ステップと実務ポイント
5-1. 既存顧問先への展開
既存顧問先へのMONTAI導入は、以下のような順序が推奨されます。
トラブル顕在化中の顧問先:即効性があり、導入メリットが実感されやすい
管理職が問題社員対応に悩んでいる顧問先:現場からの歓迎度が高い
就業規則改訂を予定している顧問先:1号業務と同時提案が自然
人事評価制度を刷新する顧問先:評価コメントとの連動で導入価値が高い
5-2. 顧問先への提案文脈
提案時の文脈設定は以下が効果的です。
5-3. 事務所内での運用設計
MONTAIを顧問サービスに組み込む際、事務所内では以下の体制整備が望まれます。
6. まとめ:1号と3号をつなぐことで、社労士業務は次の段階に進む
本記事で論じてきた構造を、最後に整理します。
社労士業務は、1号業務で精緻な物差しを作り、3号業務でそれを現場に当てる、この2つの業務の往復で価値を生んできました。しかし両者の間には、「顧問先の現場で何が起きているか」という一次情報の欠落という構造的な断層が横たわり、その断層が3号業務の深さを制約し、顧問先の満足度を縛ってきました。
MONTAIは、この断層を埋める情報導線です。1号業務で作った就業規則を、現場が日々判定できる記録仕様へと翻訳し、蓄積された記録を社労士の先生が直接参照できるようにする。この導線が開通することで、
これは、社労士という職業が「制度の設計者」から「制度と運用の両方を支えるパートナー」へと役割を広げていく、大きな潮流の一部でもあります。
MONTAIは、その転換を支える記録インフラとして設計されています。1号業務の成果物を3号業務で最大限に活かし、顧問先との関係を「トラブル対応業者」から「継続的な労務パートナー」へと深化させるための道具として、ぜひご活用ください。
社労士事務所の先生方へ
MONTAIは、社労士事務所との連携を重視して開発されています。顧問先への導入支援、事務所向け管理画面の提供、連携プログラムについて、個別にご相談を承っております。
「自分の事務所にどう組み込めるか」「既存顧問先にどう提案すべきか」といった具体的な検討段階から、ぜひお声がけください。
MONTAIは、Dayz株式会社が提供する人的リスク管理SaaSです。2件の特許(特許第7736365号、特許第7818870号)を基盤に、透明な労務プロセスを通じた組織運営を支える「人的リスク管理インフラ」として設計されています。


